従来のSES企業では、案件単価や還元率を非公開とする企業が多くありました。しかし近年は、単価評価制度や案件選択制度を採用し、エンジニアが納得して前向きに働ける企業が増えています。今の働き方や給与に不満がある方は、ぜひ企業に単価を教えてもらい、単価アップの交渉を行ってみましょう。
単価を伏せる不透明なSESは危険!
SES企業に単価や還元率を開示する義務はありません。このため、社内規定によって非開示としている企業が多く、案件の単価を知らないエンジニアも少なくありません。
案件単価は年収を大きく左右する上、エンジニア自身の価値を知るための重要なポイント。企業が給料をしっかりと払ってくれているか見極めるためにも、案件単価は把握しておきましょう。
しかし残念ながら、どう聞いても教えてくれない企業もあります。そういう企業で考えられるのは、還元率が極めて低い可能性です。企業は、マージンが明らかになることや、利益の調整が難しくなること、エンジニアの離職を恐れて単価を公開しない傾向があります。
最近では、単価や還元率を開示する、透明性の高いSES企業も増えています。まずは単価を聞いてみて、どうしても教えてくれないようなら、対策を考えましょう。
搾取を防ぐための単価開示交渉
一般的な企業なら、案件単価を隠すことはありません。まだ知らない場合は、自社の営業や、上司に確認してみてください。
教えてもらえた場合の注意点
教えてもらった単価が想定より低かった場合、単価アップの交渉をすることになります。エンジニアの案件単価は、黙々と仕事をしていれば上がるわけではありません。エンジニア側が努力したり働きかけたりすることで初めて、単価アップを目指すことができるのです。
単価アップの理由づけを行う
交渉する際には、新技術の習得や実績を具体的に提示し、単価アップの正当性を示すことが重要です。
例えば、新技術の習得やプロジェクト遂行の実績。「エンジニアとしてレベルアップできた」ことを示せれば、単価アップを実現できるかもしれません。特に、役割の範囲拡大やレベルアップを求められた時や、客先で成果を上げた時は単価交渉の絶好のタイミングです。実績や貢献に応じた単価アップを求めることで、納得感のある交渉が可能です。企業側としても納得感のある交渉になるはずです。
客先企業の予算に配慮する
注意したいのが、単価アップは客先企業の予算次第ということです。客先企業からのプロジェクトにはそれぞれ予算枠が決められており、エンジニア個人の単価だけを特別高く設定することはできません。
とはいえ、客先企業も最初から予算ギリギリで単価を決定しているわけではないでしょう。特に最初は、スキルを確かめるため「様子見価格」を提示している可能性が高いので、決められた予算内で単価アップに応じてくれる可能性は十分にあります。客先のコスト感覚を把握した上で交渉を行ってみてください。
交渉の手順を考える
単価は会社同士の契約で決められているので、会社に無断で単価アップの交渉を行ったり、契約内容を変更することは避けましょう。場合によっては契約違反になる可能性もあるので、まずは自社の管轄マネージャーや、担当営業に確認するのが良いでしょう。
特に大切なのが、営業担当者の協力です。もともと現時点の単価は営業担当者と客先との交渉で設定された金額です。このため、予算事情を把握している営業担当者の協力を仰ぐことで、スムーズに交渉を進められるはずです。
SES企業の中には、「年1回」など定期的に単価交渉をしてくれる企業があります。それ以外でも、エンジニアからの申し出に合わせて柔軟に交渉を行ってくれる企業なら、前向きにスキルアップや挑戦ができそうです。ただし、中には単価アップが特定の月まで反映されない企業もあるようなので、単価交渉を検討する際は、「単価交渉はいつできるか」「単価が上がったらいつ反映されるか」などを確認しましょう。
単価を開示してもらえない場合の対策
自分の単価がわからない場合は、自身の給与を基に単価を概算し、平均単価と比較してみましょう。
平均の請求単価を調べるには、厚生労働省の「人材サービス総合サイト」*1で該当するSES企業の「1日の派遣料金」を一つの参考にしてみましょう。月額標準出勤日数(20日)を掛け合わせると、平均の請求単価を算出することができます。全国平均の請求単価64万7880円*2より大幅に低い場合は、単価と給料を含めて働く環境を見直すことも一案です。
参照元*2:厚生労働省 令和3年度「労働者派遣事業報告書」PDF(https://www.mhlw.go.jp/content/11654000/001132162.pdf)
※全国平均の請求単価64万7880円は、各地域ごとの請求単価の中央値にその地域の人数割合を掛け、全地域の合計値を人数割合の総和で割る加重平均を用いて算出しました。
単価の不透明さがキャリアに与える影響
単価が不透明な状態で働くことで、エンジニアに多くのデメリットが生じる可能性があります。長く続くほどキャリア形成に悪影響があるので注意しましょう。
モチベーションと成長の機会が奪われる
単価が不透明ということは、自身のスキルや経験に見合った適正な単価がわからないまま働くということ。「頑張っても正当に評価されていない」「本当はもっと稼げるのでは」というモヤモヤを抱えたままでは、前向きに働くことができません。
一般的に、単価の高い案件には高いスキルや実績が必要で、スキルアップのモチベーションとなりますが、そもそも案件単価がわからなければ、自らスキルを取得したり学んだりする意欲が湧きません。
エンジニアとしての市場価値が下がる懸念
単価の不透明な企業では、会社の都合でスキルアップに繋がらない案件に配属されることが少なくありません。そうした状況が長期間続くと、「勤続年数は長いのにスキルがない」「専門性が伴っていない」として市場価値が下がり、「案件を選べない」「給料が上がらない」「待機期間が長引く」「周囲についていけず精神的に追い詰められる」など負のスパイラルに陥ってしまう可能性があります。
ストレスからの不信感と精神衛生の悪化
自分がどう評価されているかわからないと、自分の成長を実感することができません。案件情報を明示している企業なら納得感も生まれ、安心して働くことができますが、不透明な状況では、企業への不信感やストレスでいっぱいになってしまいます。案件のミスマッチが発生する可能性も高く、精神的にも悪影響を与えるでしょう。
結婚などのライフプランが崩れる
正しい評価は自身のライフプランや方向性を考える際の基準です。例えば、案件の単価が明確なら、「来年結婚式を挙げるから、高単価の案件を受注したい」「マイホームを購入するから、安定してローンを返せるように案件を受注したい」など自身のライフプランを考えて案件を受注することができます。
しかし、単価が不透明だと案件を選べず、ライフプランも行き当たりばったりになってしまいます。
単価が明確なSES会社を選ぶことが重要
SESの単価相場はエンジニアの職種・業務領域、スキル、企業規模などによって大きく異なります。単価アップを狙うなら、手順を踏んで単価交渉を行ってみましょう。
近年は単価評価制度や案件選択制度を採用する企業も増えており、エンジニア自身が事前に受注単価や還元率といった情報をもとに案件を選択することが可能です。客観的に自分の市場価値を把握し、給与額に納得した上で働くことができるでしょう。